2007年04月

2007年04月27日

●QCDとKEKとBlue Gene

・高エネルギー加速器研究機構 (KEK)の橋本先生達のチームが"量子色力学における自発的対称性の破れを厳密に実証" (英文は"Spontaneous symmetry breaking in QCD reproduced on supercomputer")したというプレス・リリースが4/24にKEKから発表されています。理論により予言されていた特別な場合に対する値が、Blue Geneを使用した厳密な大規模計算機シミュレーションにより世界で初めて再現できたということのようです。

・過去、「湯川秀樹博士が理論で予言した中間子を、12年後にセシル・パウエルのチームが写真乾板を使って宇宙線から発見し、その理論の正しさが証明され両者ノーベル賞受賞」などというように理論と実験のペアが自然科学を発展させてきましたが、いまや計算機シミュレーションが実証の一翼を担うところまで進んできているんだな〜と実感されるプレスリリースでした。

・素粒子理論分野の量子色力学(QCD)は、核物理実験出の私にとっては難しくてずっと「敬して遠ざけてきた」分野ですが、自然科学分野でのスーパーコンピューター開発を古くからドライブしてきた一大テーマです。
GF11の内部
・いわくAPE(イタリア)、 GF11(IBM)、有名なCP-PACS(筑波大)、そしてBlue Gene等々。GF11はIBMワトソン・リサーチ・センターを以前訪ねたとき、開発中のシステムを見たことがありますが、左の写真のように半分手作りという印象で、ボード数も多いため故障したボードのテスト・修理をロボットにさせるようなことまで試していました。

・Blue Geneでプログラムを効率よく走らせるためには、なにせ1ラックにDual-processorのチップが1,024個も載っているシステムなので、通常は数千プロセッサー規模のMPIによるスケーラブルな並列化の実現、チップあたり512MBの小サイズ・メモリーへの対応、ダブル・ハンマーと呼ばれる浮動小数点ユニットの活用、三次元トーラス・ネットワーク構造への問題のマッピングがプログラミング考慮点になります。

・たとえば、Desyの資料 "Optimizing LQCD on IBM Blue Gene"にこうした詳細が説明されています。この中でも引用されているように、IBM東京基礎研究所の土井さんをはじめとした研究者が、ダブル・ハンマー利用による最適化、ノード・マッピングや低遅延時間API利用による最適化などをたいへんうまく行って、ピーク性能に対して30%弱のQCD計算の実効性能を引き出しています。

・SC06でゴードン・ベル賞を獲得した本家のIBMワトソン・リサーチ・センターのBlue GeneによるQCD計算論文 The BlueGene/L Supercomputer and Quantum Chromodynamics
では実効性能20%といっていますから、これはなかなか立派なものです。

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2007年04月22日

●サーバー内蔵HDDも半導体メモリーに

・「サーバー内蔵HDDも半導体メモリーに」というのは言い過ぎかもしれませんが、4月11日にIBMが発表したクワッドコアXeonプロセッサー(クローバータウン)を搭載したブレード・サーバー HS21 XMにIBMモジュラー・フラッシュ・デバイスという面白いデバイスがオプションで付いています。

・このデバイスの中身は、4GBの容量を持ったOSブート用フラッシュ・メモリーです。半導体のためにミラー構成のHDD相当の信頼性を持ち、大きさは私の親指くらい、消費電力もHDDの1/10ということです。

・ふだん内ポケットに放り込んで持ち歩いているアップルiPod nanoが同じ4GBなので、これとHDD内蔵のiPodとを想像すればそのちがいがおよそつかめるというものです。(HS21 XMの内蔵HDDは146.8GBの2.5インチSAS HDDなのでiPodの1.8インチ内蔵HDDよりは大きくなります)。

・ブレード・サーバーに必要とされる省スペース/省電力にはきわめて有効なデバイスなので、これもコロンブスのたまごかもしれません。

cheer_hpc at 21:23|PermalinkComments(0)TrackBack(0)clip!一般 

2007年04月09日

●中井直男著「IT立国とわがPM記」

・いつもの話題を変えて新刊書「IT立国とわがPM」の紹介です。

IT立国とわがPM記・最近は研究者の方でも、多かれ少なかれ研究プロジェクトのプロジェクト・マネージャー(PM)の役割を果たす必要が生じているようにも見受けられます。

・プロジェクト・マネージャー(PM)のPは、Pressure(圧力、働きかけ)のPでありまたPeople(人材集めと活用)のPである。この二つのPこそが特別な意味を持っているというのが著者中井直男氏の一貫した見識です。

・実を言うと著者は私の上司だった方で、IBMでスーパーコンピューターを手がける拠点を米国キングストン、パロアルト、ローマに続き1988年日本アイ・ビー・エム (Tokyo Numerical-Intensive Computing Center)に最初に作っています。

・日本アイ・ビー・エムでは、もともと中井氏はシステム・エンジニア部門の大ボスとして企業のSEとはどうあるべきかを常に考えてきただけでなく、チャレンジングなプロジェクトを次々に手がけた人としてよく知られています。

・名著となった杉山隆男著「メディアの興亡」(文芸春秋社)で知られているJPS ― コンピューターで新聞をすべて制作するシステムの日米共同開発プロジェクトに1969年頃からPMとして挑戦しています。そのときのことをいわば裏側から語っていますが、どのような苦労と日米折衝があったか等は時の経た今でないと書けない話かもしれません。

・ともかく日本アイ・ビー・エムのなかでも、大プロジェクト・マネージャーとしてのたぐいまれな著者の経験と見識にふれられただけでもたいへん面白い読書でした。

日本固有の以心伝心や本音と建前が主流だった中で、今考えると未曾有の困難なプロジェクト・マネージャーをやりとおした著者が綴る言葉は、むしろ今のはるかに複雑な環境下でのPMの骨太な道しるべでしょう。



cheer_hpc at 23:24|PermalinkComments(0)TrackBack(0)clip!閑話休題 

2007年04月04日

●地震と津波の「大規模連成シミュレーション」に関する国際ワークショップ

・来週月曜日4月9日に東京大学地震研究所1号館(新館)でCREST/JSTがスポンサーの「大規模連成シミュレーション」に関する国際ワークショップが開かれます。

・大地震が相次いで起こっており科学的な検討も一部報道されていますが、この「大規模連成シミュレーション」に関する国際ワークショップでは、地震発生から津波伝播までを対象に、大規模マルチフィジクス・カップリング・シミュレーションをテーマにしています。そして国内外の講師による講演・ディスカッションで構成した専門家会議の形を取っています。

コーディネータの中島研吾先生による案内では、「本ワークショップは地震・津波を中心とした連成シミュレーションに関する,ライブラリ,フレームワーク開発者とシミュレーションの専門家による会議です。幅広い分野の皆様のご出席と活発な議論を期待しております」となっていますので、ご関心の方はふるってどうぞ。