2007年10月

2007年10月30日

●IBM BladeCenter Summit

・IBMがブレード型のサーバーであるIBM BladeCenterを発表してもう5年たちます。HPC分野ではTop500の9位のMareNostrumや日本から193位に入った三菱UFJ証券のシステムがIBM BladeCenterとしてよく知られています。

・この発表5周年を記念して11月7日(水曜日)にIBM BladeCenter Summitがホテル・オークラで開催されます。

・開発元のIBM STGからIBM BladeCenterのアーキテクチャを統括するDhruv M. Desaiが来日して"IBM BladeCenter:today and future"の講演するなどテクノロジーよりの内容のようです。

・ゲスト・スピーカーには、HPC分野で早期にPowerPC970ベースのBladeCenter JS20を導入された同志社大の廣安 知之先生の名前が見られます。

2007年10月25日

●IBM POWER6マイクロプロセッサー・テクノロジー号

IBM POWER6マイクロプロセッサーというと、電力消費をその前のPOWER5と同じままでクロックをいっきに倍の4.7GHzに上げた現在最速のデュアル・コア プロセッサーです。

・どうしてそれを実現したか、POWER6マイクロアーキテクチャなどについての詳細な内容がIBM Journal of Research and Development Vol.51,No.6 "IBM POWER6 Microprocessor Technology"のWeb版で発表されています。まだEarly paper版なので論文の一部は未刊になっていますがけっこうな分量です。

・個人的には二種類の演算加速器: POWERアーキテクチャのSIMDへの拡張命令であるVMXと十進浮動小数点演算器DFUについて書かれた章に興味を持ちました。前者はグラフィックスや科学技術計算対象、後者は十進数の正しい丸め処理が必要な金融計算向けです。
10E − 1 + 100E − 2 = 200E − 2 という表現に興味があればこの章も一読でしょう。

・図があるのでHTMLよりも、ダウンロードできるpdfのほうが断然読みやすいです。

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2007年10月20日

●Allenおばさんのチューリング賞記念にIBMがPh.D奨励賞を新設

・Fran Allenと言えば女性初のIBM Fellowであり、今年二月にHPC分野のプログラム最適化理論などにより女性で始めて情報科学のノーベル賞とも言われるチューリング賞を受賞した科学者です。

・そのチューリング賞受賞を記念してIBMがPh.D. Fellowship Award というのを設立しました。この賞はフロリダでおこなわれている"Grace Hopper Celebration of Women in Computing 2007"で昨夕発表されています。

・受賞者はキャリア・メンターのIBM研究者の指導を受けたり、IBMの研究所に招かれて発表や討論できることになっているようです。

Ph.D.の女子学生がもっと大勢コンピューター・サイエンスやエンジニアリングの研究に入ってくるのを元気づけるというのがこの賞の主旨ですので、男子学生は対象外でした。


そういえばコンピュータ系は女性が少ないような気がします。SC06のテクニカルコンファレンスの発表でも男性がほとんどでした。

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2007年10月19日

●次世代スーパーコンピューティング・シンポジウム2007

・ちょっと前になりますが、第二回になる次世代スーパーコンピューティング・シンポジウムは、今回も広い会場が満員になるという大盛況のシンポジウムでした。産官学に加えて政界からも参加しているというのがこの種の学術的な会としては印象的です。

・このことはプロジェクトの応援団が多岐の分野に渡っていることを示しているわけで、最初は心強いでしょうが、いわば多くのステークホルダーをどうやってプロジェクト成功に向けて収束させていくのか、これから大変な努力がいるだろうなというのが実感でした。

・岩崎筑波大学長が基調講演「計算科学への挑戦」でも話されていたと思いますが、私などはやはりいくつかのグランドチャレンジ問題に正面から挑戦することに次世代スーパーコンピュータ開発の意味がある、とするのがいちばん理にかなっているだろうと考えています。

・このプロジェクトを応援している産業界が、次世代スパコンを自社のR&Dに本格的に利用するためには投資判断するための、アーキテクチャなどについての次々世代にわたる信頼できる開発ロードマップが欲しいわけで、これは政府プロジェクトでは難題です。コンピューター・メーカーが自社製品化する際にしか提示できないでしょう。

・さらに予算が大きいからといって(地球シミュレーターのときの約二倍程度)、だれでも、どんな問題についても性能がだせるような10ペタFLOPS級のスーパーコンピュータなどが現在の技術レベルでできるわけがないのですから、アーキテクチャの変遷に対応し、性能を引き出していくだけのアプリケーション・プログラム開発の力量をつけていくことが必要です。フリーランチのよき時代はもう終わりつつあります。

講習会・シンポジウムでやや気になったのは、この点について楽観的というか、積極的な計画が見えない点です。今よりすぐれたコンパイラーは開発できるでしょうが、未開拓のペタFLOPSの世界がそれで済むものとは思えません。

・ベクトル・プロセッサーによるスーパーコンピューターが急速に関心を高めた1980年代半ばはプログラミング手法やアルゴリズム開発の意欲が非常に高かったときで、中でも物理学会が企画した(記憶では)冷房もないお茶の水は日仏会館に三日間缶詰めになって受けた講習会がいまでも記憶に残っています。

講習会主旨・詳細なアーキテクチャの情報をもとにして、性能を最後の1%まで引き出すためのプログラミングへ持続する熱気を作り出していくことはとても大事で、おそらくこの講習会はその先鞭をつけたのではなかったかと思います。

・改めていま見ると講習会の世話人(左)には、後の理研理事長や文部科学大臣の有馬朗人東大教授はじめ、この分野を重要とした先覚者諸氏が並んでいて納得です。こういう地味だが実際的な企画も、若い世代を対象に次世代スーパーコンピューター・プロジェクトの中で大いにすすめてみたらどうかと思いました。

2007年10月14日

●新Cell/B.E.ブレード・サーバー QS21が国内でも発表

・米国IBMではすでに発表されていた新Cell/B.E.ブレード・サーバーQS21が国内でも金曜日に発表になっていました。

おおよそは:

・クロックが3.2GHzなのは変わっていませんが、ブレードの幅がダブル・サイズだったのがQS21ではシングル・サイズになったため、BladeCenterのシャーシに14枚のQS21が入り、シャーシあたりの理論ピーク性能は6.4テラフロップスに倍増しました (単精度演算の時)。

・価格も前モデルQS20より大幅に下がって、QS21は1,386,000円(税込最小構成価格)

・プログラム開発キット(SDK)は3.0にバージョン・アップし、IBM Software Development Kit(SDK) for Multicore Acceleration v3.0 として同時に発表されています。

・出荷は10月26日から開始です。

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2007年10月08日

● Cell/B.E. Challenge'07コンテストの受賞者

・大学生を対象に今年の2月5日から始まったIBM主催の国際的なCell/B.E. Challenge'07コンテストの入賞者が最近発表されました。Cell/B.E. のポテンシャルを発見しようというのがこの"Challenge'07"コンテストの副題となっています。

・地域特性を考慮したのでしょうか、(地域1)北米/ラテン・アメリカ(地域2)ヨーロッパ/インド・中国に分けて各1位〜4位まで入賞としています。最初の関門のChallenge 1[Cell/B.E. Trivia]というクイズには25ヶ国から8万人弱が競ったともあります。

賞金は1位が1万ドル(今日のレートで117万円)、4位でも2,500ドルと日本では考えられない高額賞金となっているのが目立ちます。

(地域1)北米/ラテン・アメリカ1位はカリホルニア大とダートマス・カレッジの四人のチームによる「Brain Circuit Bottom-Up Engine Simulation and Acceleration for Vision Applications」という人間の脳の大規模モデルをPlayStation3の低価格クラスター・システムで既存の小型クラスター・システムの100倍の性能を出したというものです。

2位、3位は米国の大学の学生でそれぞれ「MapReduce on Cell for large-scale data processing」「C-Ray: Interactive Volume Ray Casting Library」、4位をブラジルのサンパウロ大学の日系人らしい学生二人の仕事「Implementation of fast object detection」が受賞しています。

(地域2)ヨーロッパ/インド・中国では、中国の学生が1位から4位まで総なめしています。

1位はShanghai Jiaotong University(上海交通大学)の6人の学生による「Exact CT Reconstruction on Cell/B.E.」で、CTによる医用画像構築をCell/B.E.を使用して10分以内で実現したものです。

・以下2位がTianjin University(天津大学)の4人の学生による「Multi-resolution Texture Synthesis on Cell/B.E.」3位がまた上海交通大学の別の学生4人による「H264 Real Time encoding on Cell/B.E.」4位がNanjing University(南京大学)の二人の学生による「A Novel Cell Powered Grid Space」です。 .

・やはりというか、入賞作品には画像や信号処理に関するものが多く、大規模シミュレーションというのはないものの、いずれもレベルが高い印象を受けます。ヨーロッパ/インドからの入賞者がいないのは、積極的な中国の学生の前に蹴散らされてしまったのでしょうか。


日本では学界主催のプログラミング・コンテストが普通ですが、国際的な企業主催による各国横断型のこの種のコンテストに参加して、とかく日本が弱いと言われているソフトウェア分野で大学生が腕試しをするという可能性も今後はありそうです。その時にはまず元気な中国やインドの学生に伍して活躍してほしいところです。

2007年10月03日

●理研GSC10周年記念の講演会から

・理研Genomic Sciences Center (ゲノム科学総合研究センター)の創立10周年を記念した講演会が都内経団連ホールで先週9月26日に開催されましたが、中でも和田昭允前センター所長の「GSCの歩み」と題した講演は非常に面白い内容でした。

・和田先生は、「批判なきところに進歩なし」ー 将来に向けての建設的な批判を歓迎する ー としていますが、一方ゲノム科学分野をビッグサイエンスと捉えて短期間で世界をリードするプロジェクトの研究成果をGSCが示すことができたことは事実であり、さまざまな立場にとっても多いに参考になることが多いはずです。昨年に続きSC07ゴードン・ベル賞のFinalistになったMDGRAPE-3プロジェクトもこの理研GSCのプロジェクトです。

物理学は越境する・当日いただいた和田先生の著書「物理学は越境する ー ゲノムへの道 ー」にはハーパード大留学時代にハーバード大が開発した真空管時代の電子計算機マーク4(Mark IV)、MITのコアメモリーの電子計算機ホワールウィンド(Whirlwind)を見てたいへんなショックを受け、将来の科学研究を制するものは計算の速度・精度・量であることを叩き込まれ、この刷り込みがその後の研究に大きな影響を与えることになったとあります。1954年頃に今で言うHPCの科学分野における価値を的確に感じ取られていたということでしょうか。この本には他にも"「小柴カミオカンデと」と「和田DNA」の違い ー 衆議院での証言"などなど、内容が全編に渡り極めて含蓄に富んだものになっています。この10年間のGSCのプロジェクトの成果は和田先生のこうした経験・思考をベースにした戦略によって強く支えられてきたのだろうということが容易にうかがわれます。非常に面白い本です。

理研GSCには10年間で総額1,260億円の研究費が投下されたとあるので、HPCの分野における7年間で約1,150億円の予定の次世代スーパーコンピューター開発の国家プロジェクトと、偶然でしょうが、期間と予算がほぼ同規模です。

・GSCの設立にあたって尽力されたのが当時科学技術庁のライフサイエンス課長だったという藤木完治氏で、この講演会での挨拶では実に楽しそうにこのころのことを紹介していました。現在は文部科学省の審議官として、スーパーコンピューター整備推進本部長という次世代スーパーコンピューター・プロジェクトの要の任です。


同じふたつの国家プロジェクトー10年前にスタートしたGSCと、昨年スタートしたぱかりの次世代スーパーコンピューター・プロジェクトをいろいろな方向から比較し思考実験してみるのも興味深いものです。