2007年12月28日

●専用システムか、それとも汎用システムか?

・次世代生命体統合シミュレーション研究開発プロジェクトのシンポジウムの続きになりますが、医薬品メーカーの方がMO(Molecular Orbital Method)専用機(Special Purpose Computer)もあるといいなというコメントをしていました。その心は、MO計算が超高速かつ少ないコストでできるようになると創薬研究におおいに役立つということだったと思います。MD(Molecular Dynamics)専用機 MDGRAPE-3の開発者の泰地さんに直接うかがったところではMO専用機も技術的には可能ということでした。

・このように専用機というのは圧倒的高性能とコスト・パフォーマンスとが両立するので常に引きつける魅力があります。

・対する汎用機(General Purpose Computer)ですが、その代名詞が360度オールラウンドに使えるコンピューターとして1960年代に発表されたIBM System/360です。それ以前は科学技術計算向けのコンピューターと、商用向けのコンピューターが別々に開発されてきましたが、S/360があっという間にシェアを獲得し、科学技術計算向け、商用向けともに汎用機に吸収されてしまいました。

・その後もアレイ・プロセッサーのような実験的なシステムやQCD専用機などが企画・製作されたものの専用機の大半が短寿命で衰退してしまったのは、やはりある程度汎用性のあるものでないと開発投資が続けられず、そのうちに専用機としての競争力が失なわれてしまったという現実があるのでしょう。

・その中でも比較的長い間生き残ってきたのがベクトル型コンピューターですが、これも2007年11月のTop500リストによるとシェア0.8%へと衰退してしまいました。
一方、汎用機の代名詞だったメインフレームも、絶対に故障してはならない基幹システムのためのプラットフォームへ進化したものの、科学技術計算分野では使われなくなってしまいました。一回りして1950-60年代当時と同じ状況になってしまったとも言えます。

・それではいま先を争って開発が進められている超並列型コンピューターはどうなのでしょうか。ここで少し強引にIBM Blue Geneを引き合いに出してみます。

・もともとBlue Geneはタンパク質の折りたたみ現象のシミュレーション 1ケースを1年で完了できる性能(1ペタFLOPS)の専用機として、設計がスタートしたものです。自己修復機能を備えるなどいくつかの革新的なアイデアがその中から生まれましたが、実際のシステムは当初描いていた先鋭的専用機にはならず、プログラム開発環境やI/OノードにLinux OSを採用するなど相当に汎用性を持たせたものになりました。性能の方も約1/3と控えめです。しかし最初のタンパク折りたたみ計算専用機のイメージが強いために、いまだに専用機(Special Purpose Computer)と思われているふしがあります。

・ちょうどIBM Journal of Research and Developmentの最新号が"Applications of Massively Parallel Systems" 特集ですので、これを参考に、進化を続けるためにはある程度の汎用性がないと難しいという視点からBlue Geneを見てみます。

・この号には、Blue Gene/Lのアプリケーション・ユーザーの16編の論文で埋まっています。それらのアプリケーションは、
1) タンパク構造の予測
2) MDシミュレーション
3) 大脳新皮質コラムのシミュレーション
4) 同上
5) リガンド発見のための並列計算
6) 創薬のための分子のドッキング・シミュレーション
7) 3-D 地震探査計算
8) 炭化水素の電気伝導度計算
9) 閉じこめプラズマ乱流の粒子シミュレーション
10) 気象シミュレーション
11) 弱圧縮性乱流のシミュレーション
12) 第一原理によるMD計算
13) N-体分子シミュレーション
14) ab initio MD計算
15) スケーラブルMD計算
16) QCD計算
ですが、個人的にはこれらに
17) 携帯電話の3-D落下衝撃解析 ((株)アライドエンジニアリング 秋葉博氏他)というSC06でゴードン・ベル賞のファイナリストに残った論文を加えたいと思います。

・これらを眺めてわかるとおり、隣接相互作用の計算が得意なBlue Geneらしく粒子系シミュレーションがやや目立ちますが、それだけにとどまらない様々な分野のアプリケーションに適用されています。

最新のBlue Gene/Pでは、低消費電力を維持しつつ7万2千ノードで1ペタ・ピークFLOPS性能を実現するというだけではなく、ノードの4-way SMP化、メモリー倍増(2GB、オプションで4GB)、ネットワークの性能アップ(バンド幅拡大と遅延短縮)というように、アプリケーションに対してより制約の少ない方向(より汎用化)に進化しているように見えます。Blue Geneはなるほどすごいなと思いました。

・もうひとつ注目の超並列型コンピューターが、複合汎用システムとして理研が開発を進めている次世代スーパーコンピューターです。性能目標10ペタFLOPSを実現するテクノロジーには非常に興味がもたれます。

cheer_hpc at 20:04 │Comments(0)TrackBack(0)clip!一般  | 閑話休題

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